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大阪高等裁判所 昭和30年(ラ)78号 決定 1958年5月28日

抗告人 大阪日産自動車株式会社 外一三名

相手方 更生会社大阪西成運送株式会社

主文

本件抗告はいずれもこれを棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等の抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

昭和三〇年(ラ)第七八号事件抗告人等の抗告理由第一について。

更生管財人提出の昭和二九年一一月二二日附上申書(記録第八六三丁)添付の同月二〇日現在の更生会社の貸借貸照表によると、更生会社の昭和二八年一〇月一〇日から昭和二九年一一月二〇日までの欠損が、一五、九三七、八九二円三三銭となつており、予想貸借対照表によると当期損失金が、九、七七一、四五三円九一銭となつていることは、抗告人等所論のとおりである。しかし、昭和二九年一一月二〇日現在の右損失金は、更生会社が従来どおりの機構の下に運営したために生じたものであることは明らかであることころ、原決定は、本件更生会社が戦時中の統合会社で経営能率の低調であるのと、これを承継した管財人の更生手続中の経営実績が必ずしも満足すべきでなかつた点に鑑み、本計画においては、会社機構に根本的改革を加え、企業を分割し、営業所を単位とする新会社を設立し、小企業特有の能率強化を図り、以て現下の同種業者との激甚な競争に堪えしめて企業の維持を企図する一方、債務弁済義務を負担する旧会社については、新会社の業績如何にかかわらず、その譲受物件の代価の支払を確約せしめて分割弁済金の財源たらしめると共に、現有資産約二、〇〇〇万円を急速に換価処分して、極力所要弁済資金を確保する方法を採ることにより、本計画の遂行が可能であると認定し、この点は右計画を原決定のように変更した場合にも肯定し得るとしているのである。そして、原決定添付別紙第一の更生計画案、同別紙第二に定める変更計画が、同抗告人等主張のように遂行不可能なものでなく、遂行可能であることは、本件記録からうかがい知ることができるばかりでなく、更生管財人作成の昭和三二年一月二八日附更生計画遂行状況報告と題する書面、同年六月二〇日附陳述書添付の別紙第一(債務弁済状況並に完済時期と題するもの。)、別紙第二(貸借対照表と損益計算書)、同年七月二〇日附更生手続処理報告書、同年九月二〇日附釈明書、更生管財人提出の愛知県貨物自動車協会外九六名の更生債権者作成の領収書綴、抗告人大阪日産自動車株式会社外五名に対する供託書、その他諸税公課、共益債権、担保債権、退職金支払に対する各領収書綴を総合すると、更生計画に定める企業分割は、本件更生計画認可を快しとしない一部債権者による反対運動のため所期の時期に営業免許を受けることはできなかつたが、昭和三〇年八月一五日免許されることとなり、同年一〇月四日から同年一一月七日までの間に計画案どおり新会社が設立され、それぞれ運送営業を開始し、昭和三二年三月三一日現在の損益計算書において、更生会社は二、七八五、六六三円の損失金を計上したが、新会社の三共運輸株式会社は、利益金五三八、四二五円を、同大阪生野運輸株式会社は、利益金四七八、六二五円を、同大阪陸運株式会社は、利益金一、四〇五、五二六円を、同住吉貨物運送株式会社は、利益金九八一、三二九円を、同西成運送株式会社は、純利益金九八一、五九二円をそれぞれ計上し、良好な営業成績を示すに至つたこと、一般更生債権に対しては、原決定に定める期日より遅れたとはいえ、原決定の権利保護条項に定める債権額の五分に相当する金額を各債権者に弁済または供託することにより、昭和三二年七月二〇日現在四一七、三九八円を除きその履行を完了し、右未払分は債権者の所在不明等のため支払準備金として保留しており、共益債権については、昭和二九年一一月二〇日現在の一一、五九三、九四七円中一〇、六七六、二二一円を支払い残額は九一七、七二六円となり、その後の発生債務一、九四〇、二二一円(その内管財人等に対する未払報酬一、七五八、六二〇円)を含め昭和三二年六月三〇日現在において二、八五七、九四七円となつており、諸税公課については、昭和二九年一一月二〇日現在の債務一〇、一五八、五八四円中五、七五四、〇七一円を支払い、昭和三二年六月三〇日現在の残額四、四〇四、五一三円となつており、退職金については、昭和二九年一一月二〇日現在の債務七、二五六、四一三円中一九三、二〇〇円を支払い残額は新会社に引き続き勤務する者につき新会社において引き受けさせる予定であること、担保債権については、昭和二九年一一月二〇日現在の債務一五、九二三、八九六円中一三、〇七三、八九六円を支払い、昭和三二年七月二〇日現在における残額は三菱ふそう自動車株式会社に対する二、八五〇、〇〇〇円の債務のみであるが、これは新会社において引き受ける予定であること、前記各未払残債務については、設立以来好成績をあげつつある新会社への車輛売渡代金、更生会社の不動産処分代金、新会社への不動産譲渡代金等を以て完済することが可能であることを認めることができる。そうすると、更生会社の支払うべき債務の弁済は、弁済の月日の点につき更生計画どおりに実行されなかつたけれども、逐次計画の線に沿つて遂行されてきたものというべく、以上の計画遂行の実績からみても、本件更生計画はその遂行が不可能のものではなく、可能なものであると認むべきである。従つて、右計画が遂行可能のものとしてこれを認可した原決定には所論の違法はない。

同抗告人等の抗告理由第二、昭和三〇年(ラ)第二四号事件抗告人等の抗告理由第一、(一)及び第二、昭和三〇年(ラ)第七九号事件抗告人の抗告理由一、同抗告人の抗告理由補充書抗告理由第一項について。

原裁判所は、会社更生法第二三四条の規定に基き本件更生計画案採決のための関係人集会において計画案に法定の同意の得られなかつた一般更生債権者の組に属するものの権利につきいわゆる権利保護条項を設定して計画案を変更して認可した。そして、原決定添付別紙第二に記載の「一般更生債権に対する権利保護条項の設定とその説明」によると、原裁判所は、本件においては、会社資産の評価を清算価格に従うときは、合計四四、一一八、九三七円であるのに、一般更生債権に優先する諸債権の小計は四四、九三二、八四〇円に達し、全資産を超過するので、厳密に考えると、一般更生債権の引当となるべき資産の額は皆無となるが、会社の資産には急速に処分しない場合の増加額金五、四二八、五二六円が見込まれるので、これから優先諸債権の引当不足額金八一三、九〇三円を控除した残金四、六一四、六二三円の半額金二、三〇七、三一二円(急速及び不急処分の平均値)にほぼ一致する金二、四一四、六六八円(一般更生債権金四八、二九三、三五七円の一〇〇分の五)を以て一般更生債権の公正な取引価格と定めるを妥当とし、一般更生債権者に対し平等に債権額の一〇〇分の五を支払うべきものとする旨判断し、残額一〇〇分の九五は免除を受けるものとしたのであつて、右計算関係は記録によつてこれを肯認することができる。そして更生計画案につき関係人集会において一般更生債権者の組で法定の額又は数以上の議決権を有する者の同意を得られない場合には、会社更生法第二三四条により権利保護条項を定めて計画案を変更して認可することができるが、本件においては更生債権者の組において同意が得られなかつたのであるから、権利保護条項を定めるには同条第二号ないし第四号の方法によらなければならない。そして原決定が、右第二号によつて権利保護条項を定めたものであることは決定自体から明らかであるところ、右第二号の場合は、更生債権の弁済にあてるべき会社の財産、すなわち担保権者の担保の対象となつている財産及び優先債権者の弁済の引当となるべき財産を除いた残余の財産を売却して支払にあてることとなるが、控除すべき上位債権者の権利の引当となるべき財産の評価は破産手続におけると同様に清算価格によるべきものであつて、企業が存続するものと仮定して評価し観念的清算をしそれに相応する対価を同意しなかつた者に与える必要はない。何故ならば、企業の存続を前提とする更生計画に反対した者に対し、企業の存続を前提とする評価に基く分配をする必要はなく、右第二号の場合は一部清算を意味するのであるから清算を前提とする評価に基く分け前を支払えれば足りるからである。原決定は右清算価格によつて評価した結果によると、一般更生債権の引当となる会社財産は皆無となるが、会社財産の一部不急処分による増加額を認め、一般更生債権者に対する分け前は債権額の一〇〇分の五に相当すると有利に認定し、更生債権者に対し平等に現金で計画認可後二ケ月以内に、資産処分の完了次第債権額の一〇〇分の五に相当するものを支払うべきものとし、一〇〇分の九五は免除を受けるものとしたのであつて、右認定は公正衡平且つ相当であるといわなければならない。また更生債権者の組において否決せられた第一の更生計画案が更生債権者に対し認可後一年以内に現金で一〇〇分の一五を支払い又は同額の代物弁済をするというにあつたところ、変更して認可せられた計画は、前示のように計画認可後二ケ月以内に現金で債権額の一〇〇分の五を支払うというのであることは記録上明らかである。しかしながら裁判所が会社更生法第二三四条の規定に従い権利保護条項を定めて計画認可の決定をする場合においても、その計画が公正、衡平であり、且つ遂行可能のものでなければならないことは当然であるから、当初の計画が遂行可能でないと認められる以上、これを遂行可能のものに変更することができるものであり、更生債権者の組で否決せられた第一の更生計画案よりも更生債権者に不利であるというだけで、変更認可せられた更生計画が公正、衡平を欠くものということはできない。昭和三〇年(ラ)第七八号事件の抗告人等は、更生会社が破産宣告を受け、破産による清算方法をとれば否認権の対象となる担保権(例えば三菱ふそう株式会社の担保権)も相当あるから、配当率は原決定の率を超えることが明らかであると主張するが、右主張事実を認めるに足る資料はない。そうすると、会社更生法第二三四条により更生債権者に対し権利保護条項を設定して更生計画案を変更して認可した原決定は公正衡平であることは勿論、会社更生法第一条の目的に従つてなされたものであつて、民法第一条にも公の秩序にも違反するものではない。また、同法第二三四条の規定は、債権者その他利害関係人の利害を調整しつつ会社の更生を図るため、不同意の組のある場合でも権利保護条項を定めて計画認可の決定をすることができることを定めたものであつて、結局公共の福祉に適合するように法律で財産権の内容を規制したものであるから憲法第二九条の規定に違反するものでない。従つて、同法第二三四条の規定により前記のように決定した原決定は憲法に違反するものではない。所論はいずれも採用できない。

昭和三〇年(ラ)第二四号事件抗告人等の抗告理由第一、(二)について。

原裁判所が、所論のとおり更生計画案の一部を変更し権利保護条項を定めて更生計画を認可するに当り、変更した条項を関係人集会に掲示してその意見を求める手続をとらず、変更前の計画案よりも更生債権者に不利益な条項を定めたことは記録上明らかである。しかし、裁判所が、会社更生法第二三四条第一項により同項第一号ないし第四号に掲げるいずれかの方法により債権者の権利を保護する条項を定めて計画案の認可決定をする場合には、同条第二項により計画案に対する決議前予め権利を保護する条項を定めて計画案を作成することを許可する場合に同条第三項により申立人及び同条第二項に定める組の権利者一人以上の意見を聞くことを要するのと異り、更生計画案に対する関係人集会の決議があつた場合には、既に更生計画案に対する意見の陳述等がなされており、裁判所は各組の意向をほぼ知つているのであるから、裁判所はその意向を参酌して適当に変更すれば足り、更に関係人集会を開いてその意見を聞くことは、法の要求するところでなく、かかる手続をとるか否かは裁判所の任意であつて、必ずこのような手続をしなければならぬものではない。従つて、原裁判所が抗告人等主張の手続をとらなかつたとしても、所論の違法はない。

同抗告人等の抗告理由第一(三)について。

原決定の定める権利保護条項に更生債権に対する債務弁済方針として、計画認可後二ケ月以内に一〇〇分の五を支払い、残額は免除を受けるものとすると定められていることは所論のとおりである。そして、右残額免除を受けるものとするとの趣旨は、更生計画認可決定の確定により残額免除の効力を生ずるものであることは明らかであるから、残額一〇〇分の九五の債権に対する弁済方法に関する計画をたてることを要しない。従つて、所論も亦採用することができない。

昭和三〇年(ラ)第七九号事件抗告人の抗告理由二、同抗告理由補充書抗告理由第二項について。

所論のとおり本件更生計画の債権の内訳の項に既退職者の退職資金及び越年資金として、合計一、〇四四、九八四円が計上され、未退職者の越年資金として四八四、九六〇円が計上してあることは、記録上明らかであるが、右は更生会社の従業員の本件更生手続開始のあつた昭和二八年一〇月九日までの既退職者に対する退職金並びに既退職者及び未退職者に対する未払越年資金であることは記録上明らかであるから、商法第二九五条の規定により更生会社の総財産の上に先取特権を有し、その順位は共益費用に次ぐものである。従つて、本件更生計画において右退職金等の順位を共益債権、諸税公課に次ぎ、担保債権の上においたことは当然であつて、右退職金等を会社更生法第一〇二条の更生債権としなかつたことには何等違法の点なく、同抗告人の主張は理由がない。

同抗告人の抗告理由三、同抗告理由補充書抗告理由第三項について。

所論のとおり本件更生計画の債権の内訳の項に未退職者に対する退職金として、五、七二六、四六九円が計上されていることは記録上明らかである。しかし、会社更生法第二七〇条第一項は、更生手続開始後会社の取締役、代表取締役、監査役又は使用人であつた者で、引き続き新会社の取締役、代表取締役、監査役又は使用人となつたものは、会社から退職したことを理由として退職手当の支給を受けることができないと規定しているが、右規定は、更生会社の役員又は使用人であつた者が、更生手続開始前の会社在職期間について将来退職した場合に支給を受くべき退職金請求権を、その権利者が会社を退職し新会社の役員又は使用人となつたことを理由として失わせるものでないことは、規定自体から自ら明らかである。そして、本件更生計画に計上されている前記退職金は、更生会社の役員又は使用人が、本件更生手続開始前の会社在職について将来退職した際に更生会社から支給を受くべき退職金であることは記録上明らかであるから、その権利者は、更生会社を退職したときは当然その支給を受けることができるものと解すべく、従つて右退職金を計上した本件更生計画は何等会社更生法第二七〇条第一項の規定に違反しない。また右権利者が先取特権を有することは、同抗告人の抗告理由二につき説明したとおりである。同抗告人の所論は採用できない。

同抗告人の抗告理由四、同抗告理由補充書抗告理由第四項について。

会社更生法第二〇六条は、関係人集会において更生計画案が議事に上程されたが可決されるに至らなかつた場合、直ちに更生手続廃止(法第二七三条)の処置をすることはそれまでの手続を徒労に帰せしめることとなり適当でないので、期日を続行し、その間にできるだけ計画案が可決されるように準備させるとともに更に再考の上慎重に決議する機会を与えるための規定であつて、右期日に更生計画案が上程されなかつた場合の規定ではない。右期日において更生計画案が上程されず、従つて採決にも至らない場合の期日の変更、延期及び続行は、会社更生法第二〇七条の規定による可決の時期の制約はあるけれども、一般の規定により裁判所が申立によりまたは職権でなし得るものと解するを相当とする。記録によると、原裁判所は、本件につき更生計画案採決のための関係人集会(第三回集会)の期日を昭和二九年一一月一日午後二時と定め、右期日を指定どおり開いたが、更生計画案に対する採決の手続に入る前管財人は右期日の続行を求め、抗告人大阪日産株式会社代理人前田常好は右期日の続行に反対したが、裁判官は管財人の申立を許容し、期日を続行する旨宣し、次回期日を同年一二月一日午後二時と指定し、同年一一月二六日に右期日を同年一二月一三日午後二時と変更し、右期日に第三回関係人集会の続行期日を開き、本件更生計画案に対する決議がなされたことが明らかである。従つて、原裁判所は、再決議のための続行期日を定めたものでなく、更生計画案の採決に入る前に管財人の申立により期日を続行したのであるから、右期日の続行には会社更生法第二〇六条の規定の適用はないものというべく、原裁判所が同条所定の者の同意を得ることなく期日を続行し、次回期日を定めたことは何等違法ではなく、また同法第二〇七条第二項は同条第一項の可決期間の伸長の場合の規定であつて、右のような期日の続行の場合を直接規定したものではない。従つて、原裁判所が、続行期日を昭和二九年一二月一三日午後二時と定めたことは適法であつて、同抗告人の所論は採用することができない。

その他記録を調べてみても、原決定にはこれを取り消すべき違法な点はなく、本件抗告は理由がないからいずれもこれを棄却すべきものとし、民訴法第四一四条第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

(別紙)昭和三〇年(ラ)第七八号事件の抗告人等の抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨

原決定は之を取消し、更に相当な御決定を為されむことを求む。

抗告の理由

抗告人等の抗告の理由は左の二点である。

第一更生計画案は遂行の可能性を有していない。

本件更生会社が窮境に陥り破綻を発表するに到つた事情と経過についての説明は抗告人等に於て之を肯定しない。従て会社更生再建の基礎をその点から出発しようとする管財人の方針に対しても亦、われ等は所信を異にするが故に賛成出来ない。

事実として管財人立案に係る更生計画案は当初からその遂行可能性が全然存しなかつた。現に本件記録に就て観之、管財人等の鋭意苦心の経営にも拘らず更生会社の業蹟は下降の一路を辿り、容易にその好転は期待し難い、この事は昭和廿九年十二月十三日の第二回関係人集会に於て吉宗管財人も之を認めている。又管財人作成に係る「上申書」と題する書面中昭和廿九年十一月廿日現在の貸借対照表(自昭和廿八年十月十日 至昭和廿九年十一月廿日)の示す処に拠れば右期間内の欠損は実に千五百九十三万七千八百九十二円三十二銭を計上し、更に計画案実施後の予想貸借対照表を観れば、当期損失金として九百七十七万円余と予定している。然も借金は勿論税金の支払もせず設備を加へたのでもない純然たる欠損である。若し夫れ会社企業経営の本則に立つて正規の債却を行ふ建前で貸借対照表を作成するとすればその欠損の数額は遙に多額を示すであろう。

元来自動車に依る運送営業に於ては、その使用に供する自動車は常に修理を加へ、新車を補充して稼働能率の低下を防止しない限り業蹟の維持上昇は期し難い。

本件更生会社が叙上欠損の下に経営を持続して来た経路を顧ると名古屋路線、竝に右に使用の自動車を、扇興運輸株式会社に金四百四十七万二千九百五拾円で売却処分(昭和廿八年十二月廿三日申請同月廿五日許可)したのを始めとし、担保対象となつていない主要財産を売却して運転資金にした所謂自己財産の自己消費であつたことが判る。

然も水揚成績は経費とは反比例して著しく下降していることは本件記録中に添付の管財人提出の各書類に徴して極めて明瞭である本件更生会社が斯る業態に陥るべきことは、その原因を内部に包蔵しており必然の運命であつて、われ等は寧ろ、この窮境に在つて経営を継続している管財人の努力を讃へ度いとすら思ふ。

然し乍ら、抗告人等は「更生計画案別紙第一」は到底遂行不可能との信念を有していたが為めに之に賛成しなかつたのであり他意はない。而して、遂行に可能性を有しない更生計画案は認可せらるべきでないと抗告人等は確信している、此の点に付き抗告人は神戸地方裁判所が同庁昭和廿八年(ミ)第二号事件に付て昭和廿九年八月十九日に決定した更生計画不認可の判例を茲に引用する。

右判例の要旨に依ると

「現時の貨物自動車に運送営業は競争激甚であり他方自動車の消耗率も極めて大きく管財人の予想する更生後の運賃総収入をあげることは甚だ困難である、この運賃総収入を基礎にする更生債権や未払共益債権の支払計画の遂行も困難である。

更に本件計画による中古又は新自動車の購入も容易でないし又本件会社は当分銀行等から資金を借入れたりそれらと手形取引等を行い得る見込もない………云」以下省略

方に本件更生会社の場合に該当する(此の判例はタイムズ第四四号附録六三頁の所載による)

第二変更せられた更生計画案(権利保護条項を設定した)は公正衡平ではない。

(1)  本件更生会社の債務総額は九三、二二六、一九七円、内一般の更生債権は四八、二三九、三五七円で正に五割一分八厘を占めている処、管財人作成の更生計画案によれば、この債権者に対しては「認可後一年以内に一割五分を支払ふ、又は右に対し債権者の撰択により粉浜本町の土地竝に建物を代物弁済に供する、その余の債務は免除を受ける」旨の条項(仮令それが遂行不可能であつたとしても)を又株主に付ては資本減少の方法を採り拾株につき一、五株の割合とする旨の条項を定めていた。

(2)  斯の如くにして、管財人は更生計画案実施直後の当期予想貸借対照表に記載の如く、当期損失金九、七七一、四五八円を

債権免除差益金 三、三九七、〇〇〇円

減資差益金   六、三七五、〇〇〇円

に依て処理する方針であることを明にした。

更生計画案、立案に際して最も根本的に考慮せらるべき対象は更生債権であらねばならぬ、蓋し更生担保債権は、物上担保を有しているが故に蒙る犠牲は期限の猶予と支払方法だけであり株主に至つては本来当該会社の投資者で会社構成分子それ自身であるからである、会社更生法第二百廿八条が計画案に付て条件に差等を附して実質的平等を期したのは当然である。

(3)  然る処、原決定は会社更生法第二三四条に基き計画案不同意の更生債権者の組に対して「権利保護の条項を設定して」之を別紙第二の如く変更して認可したのであるが右決定の結果は衡平を失し抗告人等の承服致し難い点である。

個人の財産権を尊重し敢て之を侵さないことは憲法第廿九条が保証している。個人の意思に反して多数決の方法によつて個人の財産権に干渉を許すことは法律に明文ある場合に限られた例外である。

会社更生法が果して我国情に適合する立法であるか否かの論は今試る限りでないとしても同法第二三四条適用は行政処分の実質を有して居りその実施に付て政治的責任を負ふ何人も存在しない以上これが断行は厳に慎重考慮が期待せられるものと抗告人等は確信している。

客観情勢上、更生再起の可能なき一会社を強いて存続せしめるが為めに多数多額の債権者を犠牲にすることは方に一生多数ではあるまいか、会社更生法に於ける衡平の原則はこの角度からも観察し得ると信じる。

殊に、若し本件更生会社にして即時破産による精算方法を採らしめた場合に於ては否認権の対象となる担保権(例之三菱ふそう株式会社の担保権)も相当に存在し配当率の如きも原決定の率を超ゆることは略之を領することが出来る。

抗告人等は、信用取引を擁護し、われ等の業界に第二、第三の大阪西成運送の再現を防止せんが為めにも本件更生会社の破産を希望してやまない。

昭和三〇年(ラ)第二四号事件の抗告人等の抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨

一、原決定を取消す更に相当の裁判をすることを命づる

との御裁判を仰ぐ

抗告の理由

抗告人等は本件更生会社の更生債権者である。

第一、原審裁判所は前記更生会社の計画案を管財人に於いて修正し第三回関係人集会に於て昭和二十九年十二月十三日更生債権者の組は否決し原審は会社更生法第二三四条に従ひ計画案を変更して認可の決定をした。

(一) 更生債権者の不同意により否決せられた組に提示せし修正計画案は総債権額の壱割五分を支払ふか亦は代物弁済として大阪市住吉区粉浜本町三丁目四ノ一宅地五百三十一坪九合(時価九百万以上)を提供し結局一割五分程度に於て計画案に賛成したるも僅少の者の不同意に依つて否決するに至る。

原審が法第二三四条に従つて右修正計画案(否決)より更に少額なる弁済なる時は同条を適用する迄もなく不認可の決定を為すべきにも不拘計画案を変更して認可后二ケ月以内に百分の五(五歩)の支払を条件として認可の決定をした。

法文には「為めに」とあり総額四千八百二十九万余の一割金四百八十万円也は同条を適用したるが為め不利益の損失となつた従つて認可の要件である第二三三条第一項二号の公正、衡平に当らない他の債権者と著しく不公正である事が窺はれる此点法律違反である。

(二) 裁判所は計画案を変更し」とは管財人の修正計画案を変更するのであるから変更した条項を関係人集会に提示し其意見を求むべきが当然なる手続なるに原審は更正債権者に不利益に変更し認可決定と同時に発表した。

右変更決定は否決計画案に基いて関係人に夫れ以上の不利益なる地位を与るが如きは原審の権限外の事である法の不当の解釈である。

(三) 更生債権額 金四千八百二十九万三千三百五十七円

同数 百十一名

に対し百分の五を支払ひ残額は免除をうけるものとする

との計画案で「免除をうけるものとする」とは計画案の条項で更生債権者全員免除に付承諾したものでなく一面原審の認可決定に依つて私権の債権が免除の効力が発生して消滅するものでない依つて百分の九十五の債権は現に更生債権者の債権である其支払方法の計画はなきに等しい即ち不法の決定である。

第二、仮りに前三項の百分の九十五の割合の債権免除の効力があるとすれば財産権の侵害を受けた事になり憲法第二十九条に違反する認可決定と云はねばならない明かに違憲の対象となる。

又民法第一条各項に牴触し、公の秩序にも反する事をも考へなければならない。

(更生債権者百十一名中更生会社と商取引によつて発生した債権で僅かの利益によつて取引したもので九割五歩の抛棄となれば死活問題或は破産状態をも考へらるるものもある)

右即時抗告の理由と致し御審理を願う次第です。

昭和三〇年(ラ)第七九号事件の抗告人の抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨

原決定はこれを取り消し、更に相当の御裁判を仰ぐ

抗告の理由

一、本更生計画は更生法第一条の目的に反す

本法の目的は第一条に明記の如く利害関係人の利害を調整しつゝその事業の維持更生を図る事に依り社会的損失を未然に防止するにある然るに本計画案は一方に偏し少しも公正衡平に利害の調整が出来て居らぬ即ち更生債権者のみの九割五分切捨てと云ふ忍び得ざる最大の犠牲を認め担保債権者には期日の猶予に止め且つ退職者には退職金の全額を先取特権として認める等公正衡平とは認め難し斯の如き不合理極はまる案が社会に周知したなれば不況に喘ぐ個人経営、合資合名及有限会社は組織を変更し株式会社と為すであろう。斯くなれば株式会社に対する取引は全て現金でなければ取引出来ぬ不安を醸し出し取引に一大支障を来たし経済界は撹乱するであろう事を恐れるものであります。

二、昭和二十八年十月九日迄に退職せる者に支払ふ退職金に先取特権を認めたるは法第一〇二条に違反す。

本件は既に更生債権として届出てあり先取特権を認める事は違法である。

三、計画案認可に依り新会社に転籍する者に支給する退職金に関する件

本件は法第二七〇条に違反す。

四、続行期日指定に関する件

昭和二十九年十一月一日関係人集会に於て裁判所は法第二〇六条を履行せず職権に依り十二月一日に続行期日を指定(実際は十二月十三日と為る)したるに依り十一月一日以降の集会は無効と認む。

昭和三〇年(ラ)第七九号事件の抗告理由補充書

抗告理由の第一項

更生法第二三四条は憲法第二十九条の精神を体し更生法第一条の目的に副ふ様発動せらる可きものと思はれますが本決定は憲法の精神を無慙にも蹂躪し尚且つ更生法第一条の目的に反する決定なる事は抗告状の通りに付き省略致します私の知る処或は聞く処に依ると本件が導火線となり倒産せる債権者がある由誠にお気の毒の至りであります飜つて更生会社の現況は如何かと云へば好況の波に乗り且亦運営の良しき故を以て順調なりと聞く(此れは更生会社員の話にてその真疑の程は不明なり)万一此の話が事実とせば会社は決定の如何に関せず担保債権者と同様全額を支払ふ事が必要であります即ち此の事は人の踏む可き道であると同時に憲法の精神及更生法の目的に合致するものであります。

尚裁判所の監督及管財人の職責に付て申し上げ度いと存じます。

裁判所には命令権(此れは適切な言葉でないかも知れません)及監督権があります然るに本更生計画に関しては決定は更生債権者に対し実に苛酷且峻厳そのものでありましたが更生会社に対する監督は実に寛大且つ不充分であつたと思はれます即ち決定は(二十九年十二月十三日)二ケ月以内に五パーセントの支払を命令せられたるにも拘わらず三十一年十二月下旬迄(此の間二ケ年間)更生会社が支払をせぬを黙認せられたる事

管財人は更生会社が種々なる特典が与へられ居るに依り忠実なる義務が要請せられ居る事は充分御承知なるにも拘わらず実に不誠実であつたと云はざるを得ない一度として支払の遅れる事の通知を受けたる事がありません此の二ケ年間即ち三十年初頭と三十一年末とを比較すれば貨弊価値に著しき変動あり此の間に受けたる損害は僅少ならず此の損害は誰れが補償を致しますか

試みに私に関する事を申しますと、

三十年初頭の鉄鋼材一屯当り 四万円-五万円余り

三十一年末 十二万円余り

現在 十万円余り

尚御参考迄に三十一年九月十三日の日刊工業新聞の切抜きを差上げますから御覧になつて下さい此れは恐らく東京に於ける更生事件と思はれます此れに依ると五〇パーセントの支払にして尚且つ此の様な事が掲載されて居るのであります。

如何に本更生計画の認可に対する決定が憲法の精神及更生法の目的に反するかを物語るものであります。

抗告理由第二項

更生計画案の債務金額及弁済方法の項に既退職者の退職金及越年資金として合計一、〇四四、九八四円計上あるも右は更生手続開始前の退職者亦越年資金の項に未退職者として四八四、九六〇円計上あり此の合計金額一、五二九、九三四円は更生手続開始前の原因に基いて生じた財産上の請求権なるに依り法第一〇二条に依り当然更生債権として届出を為す可きものにて先取特権を認めたる事は違法であります。

抗告理由第三項

計画案認可に依り新会社に転籍する者に支給する五、七二六、四六九円の退職金が計上あるも本件は法第二七〇条第一項末尾の如く「退職手当の支給を受けることができない」と明かに為されあるを無視して先取特権を認めたるは第二項同様に違法なる決定であります。

抗告理由第四項

続行期日指定に関しては法第二〇六条に明記の如く賛否を議決権により調査決定すべきものと思はれるも裁判所は何等の調査をせぬのみか左記の如く管財人及代理人間に於て意見が対立し亦抗告人も続行に反対の旨を申述べ居るに依り当然否決さる可きものと思料す。

尚法第二〇七条第二項の末尾に「一月をこえることができない」と明記あるを言ひ渡しは十二月一日と指定し乍ら実際の集会は十二月十三日に延期開催せられたるに依り明かに法律違反と思はれます。

依つて十一月一日以降の集会は無効と思料致します。

甘糟管財人の申立

吾々管財人としては本更生計画立案に際し全ての債権者の権利を均等に保護し得るよう努めると共に債権者の方々と本更生計画案中に定めた条件に付いて諒解願うべく種々話し合ひに努力して参つたのであるが何分にもぎりぎり一杯の案を立てた関係上一般債権者の一部の方々には承認願えぬのではないかと推察され従て否決される虞れが多分にあるので之が権利保護条項を立案の為右期日の続行を求む。

前田代理人の意見

吾々一般債権者としては本更生計画案について既に再三管財人同氏と接衝し胸襟を開いて話し合つたのであるが遺憾乍ら吾々の要求は容れられず一方本更生計画は遂行不可能であつて会社更生法第二三四条の発動によりうまく行けばよいが悪く行つた場合には誰れが責任を持つかということになり吾々としてはつくすべきはつくした今日此れ以上期日を続行させることは時間の徒過に過ぎず且更生会社の業績は日増に下降している現状であり時日が延びる程債権者としては不利益を蒙る結果になるので右期日の続行には反対する。

抗告人の反対意見

前田代理人と同様の主旨の反対意見を申述べて居ります。

右の如く議決権の総額の過半数以上が反対を表明して居るにもかゝわらず続行期日を言い渡したるは違法であります。

以上抗告の補足説明を申し上げましたが何卒裁判長の適切なる御裁判を希ふものであります。

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